誰もが知っている「チューリップ」の歌詞を分析してみましょう。
この歌詞は以下の通りです。
さいた さいた チューリップのはなが
ならんだ ならんだ あかしろきいろ
どのはなみても きれいだな
二歳児でも知ってて歌える有名曲
二歳児でも知っている全43文字のこの歌、これは現代文の実力養成に非常に良い課題です。
1行目:咲いたことの感動と簡単な状況説明
まず1行目。
チューリップの花が咲いたことが述べられています。 非常に楽しみにしていたのでしょう。
「咲いている」というように現在の状態をいうのではなく、「咲いた」と「前回見たときと比べた状態の差」を表現しているところに感動が見られます。
そしてその感動は「咲いた」を繰り返すことにより強調されています。
加えて「チューリップの花が咲いた咲いた」ではなく「咲いた咲いたチューリップの花が」と倒置法を使うことで感動が一層伝わってきます。
2行目:落ち着きを取り戻し詳細描写
いきなりチューリップの開花に感動するというところから入ったこの歌詞は次の2行目で、「並んだ並んだ赤白黄色」と多少落ち着きを取り戻して、開花したチューリップ群をもう少し細かく描写します。この短い歌詞だけで赤白黄色のチューリップが花壇、もしくは花畑に並んで咲いている情景を目に浮かべることができます。
特に「並んだ並んだ」と繰り返すことで赤白黄色のチューリップがそれぞれ一本ずつしか咲いていないのではなくある程度の数のチューリップが咲いていることが想像できます。
3行目:感想
1行目2行目の「咲いた」や「赤白黄色と並んでいる」というような感動や詳細描写を踏まえそれを総括する感じで最終行である3行目で、「どの花みてもきれいだな」と感想を述べています。
構成の巧みさ
1、2行目で情景説明しておいて3行目でその感想を述べるというこの構成は聴く者に納得感を与えます。
1、2行目が組となっていることは、ともに「語の繰り返し+名詞」という構成となっていることからも見られますし、メロディーも1行目と2行目は最後の1音以外は全て同じであるということからも見ることができます。
尚、1行目は形式上は情景描写ではあるがその中に「待ちに待ったチューリップの花が咲いた」という感動をも込めているところが素晴らしい。
また、咲いたチューリップの色であるが3色というのがまたよい。これが赤白の2色では物足りないし、赤白黄紫の4色では多い感じがする。
視点の遷移
さて、次にこの歌詞の視点の遷移を見てみましょう。まず、1行目で「チューリップが咲いた」と花壇か花畑をぱっと見た全体的なイメージが書かれています。次に「赤白黄色と並んでいる」と、赤白黄のチューリップ群のイメージにまで詳細化されてきました。更に3行目では、「どの花みても」と個々の花一本一本にまで注意が及んでいます。
このように童謡チューリップは、チューリップの花壇または花畑を前にした観察者の視線が全体から個別に段階的に移動していく様子を見事に描いています。
「あ」と「お」の優遇
さて、童謡チューリップは歌であるから当然声に出し耳で聴かれることになります。
そこで最後に音という面に着目した歌詞の分析を行ってみましょう。
メロディーの節に着目して、歌詞を切ってみます。
さいた
さいた
チューリップのはなが
ならんだ
ならんだ
あかしろきいろ
どのはなみても
きれいだな
各句の最後の文字の母音を見てみますと、
あ : さいた
あ : さいた
あ : はなが
あ : ならんだ
あ : ならんだ
お : きいろ
お : みても
あ : きれいだな
と、きれいに「あいうえお」5つの中で「あ」と「お」しか使われていません。しかも「お」は、最後近くに2回連続して出てくるだけです。それ以外の6回は全て「あ」です。これはどのような効果を生み出すのか考えてみましょう。
「あ」の音は他に比べ口を大きく発声します。元気な明るい音です。これに対して「お」は口をすぼめての発声になります。元気さや明るさに劣ります。
曲の構成でみますと、まず元気な「あ」音でずっと飛ばします。語の繰り返しも用いて元気さを強化しています。しかし一本調子では面白みに欠けます。それで最後の1歩手前に「お」音でクールダウンしておきます。
で、最後に「綺麗だな」という「感動」表現を持ってくるのに合わせて「あ」音を復活させて引き締めているわけです。
おわりに
以上、童謡チューリップは国語現代文的解釈上、非常に優れた歌だということがお分かりいただけたと思います。たった43文字の歌なのにこの充実度。幼児にのみ歌わせておくのはもったいない