日本語と少年サッカー

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「翼をください」を文面に忠実に解釈する


今も多くの歌手にカバーされ、合唱曲としても歌われる「翼をください」ですが、この歌詞は現代文的になかなか面白い点があります。

この歌詞は、文学的理解には、本来は、その時代背景を含めて解釈するべきですが、学校で学ぶような国語現代文の解釈においては、書いてあることだけで理解するというものですので、今回は時代的要素を排して歌詞のみに着目してその面白さを見てみます。

歌詞のテーマ

この歌詞の全体を流れるテーマは、表面上はあまり面白くない。単に「現状から逃げ出したい」と言っているだけである。念をおしますが、時代背景を無視して歌詞からだけの理解をしています。
また、その前半にも見るべきものが無い。「翼がほしい」というだけの情報を歌詞の半分も使って言っており、他にめぼしい情報も提示されていない。

面白いのは歌詞後半

但し、後半の歌詞に微妙な構成がある。
このおおぞらに つばさをひろげ とんでいきたいよ
かなしみのない じゆうなそらへ つばさはためかせ いきたい
普通に一度聞いただけで理解できそうな歌詞であるが、そこに国語現代文の解釈上微妙な難しさが潜んでいる。
それは次のようなものである。

最初の「この大空」と、次の「悲しみの無い自由な空」とは同じなのか異なるのか。歌詞の構成上はどちらとも取れる。
しかし、これを同じと解釈するか異なると解釈するかでこの歌詞の意味は大きく変わる。特になぜ「翼をください」と言うのかという、この歌詞の根底に流れるテーマが、そのどちらの解釈を取るかで変わってしまうのである。
解釈に入ろう。

1.「この大空」と「悲しみのない自由な空」とは同じとする解釈

この場合の2行の歌詞の意味は、
悲しみのない自由なこの大空へ翼をひろげ、翼をはためかせ 飛んでいきたいよ
となる。

2.「この大空」と「悲しみのない自由な空」とは異なるとする解釈

この場合の2行の歌詞の意味は、
この大空に 翼をひろげ 悲しみの無い自由な空へ向かって翼はためかせ飛んでいきたいよ となる。

1.と2.で意味がどう変わるのか

1.では、大空自体が、
  「手の届きそうなところに見えてはいるが飛ぶことの出来ない人間ではそこに行くことの出来ない場所」
の比喩であることになる。
この比喩を外せば、この歌詞は、
「悲しみの無い自由な世界とはどういうものか分かっているにも関わらず、そこに到達する方法を私は知らないのでそれを与えて欲しい」
と言っていることになる。実現すべき理想は見えているが、その適切な実現手段がないと言っているのである。 では、2.ではどのような解釈になるのであろう。
2.では、大空は、
  「まだ見ぬ自由な世界がそのずっと先にはあるはずと考える自分たちがいまいる世界」
の比喩であることになる。
この比喩を外せば、この歌詞は、
「悲しみの無い自由な世界とはどういうものか分からないが、少なくとも現状を打開しないとそこには到達できないであろうと思えるので、その打開手段が欲しい」
と言っていることになる。しっかり先を見据えての行動と言うよりは、目先の問題にとらわれている感がある。
両者には、「悲しみの無い自由な世界」がイメージできているかできていないかの絶対的な違いがある。
そしてこの違いにより、「翼」の価値が、「明確化された目標へ到達するための手段」であるか「取りあえず現実から逃避するための手段」であるかの違いとなってくる。

作詞者はどう考えているのか

では、作者はこのどちらの考えに立って作詞したのであろうか。それを推測することは可能である。それは、「『翼がほしい』というだけで他にめぼしい情報も提示されていない 」と先に言った前半の歌詞を分析することで分かる。
いま わたしの ねがいごとが かなうならば つばさがほしい
このせなかに とりのように しろいつばさ つけてください
最初は単に「翼がほしい」と言うだけであるが、次に、「背中に鳥のように白い翼つけてください」と具体化・詳細化している。
この漠然と言った後、具体化することを繰り返す技法がそのメロディーとあいまって、この曲にゆっくりではあるがしっかりとしたうねりを生み出させるのである。
このうねりを持つ歌詞の流れがそれ以降も続くと考えると、「大空」について歌う2つの文についても、先行する文が後行する文により具体化されるということになる。
そうであれば、この歌詞の理解としては、
   1.最初の「この大空」と、次の「悲しみの無い自由な空」とは同じである
とする解釈が正しいということになろう。
つまり、「悲しみの無い自由な世界とはどういうものか分かっているにも関わらずそこに到達する方法を私は知らないのでそれを与えて欲しい」がこの歌詞の正しい解釈であろう。

この歌詞の結論

そして、この歌詞の裏には、「しかし、だれも与えてくれることはない、そんな翼など存在しない」というむなしさも含んでいる。これにより「翼をください」は、そのメロディーとも相まって独特の世界観を表す歌詞になっている。そして、ここには、自分から翼を獲得しようという意思は見えない。無力な自分を認識した上での歌詞なのである。