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走れメロス~王は仕方がなかった


王は確かに身内を殺してきた。しかし殺したのは「その地位を脅かしている可能性のある者」ばかりといえる。

先に触れたように王は一般の市民を手に掛けていないことは注目に値する。
本当にとんでもないやつらが、自分の周りにいたとはいえないか。

王の行動のストーリー

老爺が言う、王が手にかけた人々をその順番が殺された順として考えると、以下のようなストーリーができる。

(1)野心を持った青年が王に認められ、王の妹と結婚する。

(2)青年(妹婿)はかなり高い地位と職を得る。

(3)妹婿は、更なる地位を得て自分の思うがままに権勢を振るいたいと思う。しかし現在の王はそれを許してくれそうもない。

(4)妹婿は、王の世嗣と密約し、クーデター計画を練り始めるも、発覚。

(5)王は、妹の悲しみを知りながらも、クーデターは企てるだけで死刑とする。法律を厳格に適用して、妹婿の処刑を裁可。

(6)王の世嗣は、同じクーデターの首謀者でありながら、「世嗣は王本人と同じ」という超法規的論法で処刑を免れる。これは、自分の子を殺したくないという感情よりも、第1位の王位継承者が死ぬことで、王位継承権争いが勃発し、国が荒れるすることを王が懸念したための処置であった。しかしこれには夫を殺された妹が納得しない。

(7)妹婿と王の世嗣の密約を知る妹の暴露によりクーデター計画に関する。王の世嗣の関与の致命的事実が王宮内に広く知れ渡る。

(8)王は王制の秩序を守るため、苦渋の選択をして、世嗣を処刑する。

(9)自分の腹をいためた子の処刑に皇后は激怒。この機に乗じて以前は賢臣と呼ばれたが既に時代遅れとなって引退を余儀なくされた臣下の者が再び権勢を得ようと皇后に近づく。

(10)臣下の者は皇后を満足させるため、世嗣を処刑に追いやった王の妹をクーデターの共犯者として処刑させることを王に進言。

(11)クーデターの件では、王は身内である妹、皇后の怒りに振りまわされる状態になっており、彼女らの背後にいる臣下の者達の思惑まで気をめぐらせることができないまま、妹の処刑を認可。妹の子も、クーデター首謀者夫婦の子ということで同時に処刑。

(12)王位継承権のある皇后の子が処刑され、次の王位継承者が皇后と血縁関係が無い者になったことを皇后は、気にしなかったため、王宮内の皇后の発言力が微妙に低化。これを皇后を背後からあやつろうとしてきた臣下が嫌い皇后をせかして一気に皇后に権力奪取させようとする。

(13)権力奪取に乗り気でない皇后は振る舞いを誤り、かねてより皇后の更なる権力剥奪を狙う一派により、逆賊として捉えられる。

(14)王は深い悲しみと共に、皇后といえども王の地位を危うくする行為は死に値するとして、皇后を処刑する。

(15)しばらくして皇后の背後にいた臣下が判明、即刻処刑。

(16)このような争いの現況は臣下の権力闘争にあると見た王は、王宮内改革を断行。少しく派手な暮しをしている者に人質ひとりずつ差し出すことを命令。別に罪人として捉えるのではないので、王宮警備隊の監視下に置くが、相応の環境で遇することとした。

(17)王の権勢が弱まったことに乗じ国が乱れることを望む者や自分の権力を勘違いする者は人質を拒否。

(18)王は国のこれ以上の混乱を避けるため、やむなく人質を差しださなかった者の処刑を命じた。王は国内の権力争いに乗じて他国が攻め入り、国が滅ぶことを最も恐れた。国が滅びれば民の境遇はどうなるのかと。

(19)臣下の処刑で国の秩序はようやく回復しつつある。

(20)この王の悲しみに満ちた国政に対し、権勢を剥奪された臣下の一人が、たまたま会ったメロスと言う男をけしかけて、復讐心から王を無きものにしようとした。王が信用しないのは自分の地位を脅かすものたちであり、決して一般の国民ではない。ここが重要なところだ。それをこの老爺は、意図的にかどうかわからないがメロスに正しく伝えていない。

(21)メロスは政治のことなど無知だから、背景も何も考えず「人殺し=悪」として王殺しに向かった。しかも、いつのまにか王が疑っているのは自分の身辺で王位を脅かす者ではなく、「民の忠誠」と一般化されている。

王よりひどいメロス

「走れメロス」に書いてあることからは、このように読むことが可能である。そんな、ひどい読み方ないよ、という意見もあろう。しかし作者の太宰治はこの読み方を補強するような記述をメロスの中に書きこんでいる。
メロスがどうもいわゆる英雄、正義漢とは言えないおかしな人物なのだ。