「走れメロス」がなんで中学2年の教科書に載るのか分からない。老爺による若者を使ったテロの試みを、王が機転をきかせて阻止しただけでなく、若者の更生もしてしまった話だぞ、これ。よく読めば、王がとんでもない聖人であることまで分かる。国語の教科書って、厨二病のラノベかよ。
テロの首謀者 老爺
路で逢った老爺に「王様は、人を殺します。」と吹き込まれて、メロスは激怒し、「呆れた王だ。生かして置けぬ。」と国王を殺す決意をする。本当にメロスは単純な男だ。チョロい。明らかにメロスは、この老爺に利用された無知なテロリスト。この老爺、それ以降は登場しない。当然だ。指示役は、実行役が国王暗殺に向かったら、実行犯との接触は極力避けた方が、自分が捕らえられるリスクを下げられるからな。老爺は国王を暗殺したいが、自分の身は守りたいという人間だからな。
メロスのプロフィール
メロスには父も、母も無い。女房も無い。十六の、内気な妹と二人暮しだ。この妹は、村の或る律気な一牧人を、近々、花婿として迎える事になっていた。
これ、唯一の身内である妹も結婚するので、メロスの死で露頭に迷う者はいない。結婚する妹も、嫁に行くとなると先方からテロリストの妹と厭われる可能性があるが、婿として迎え入れるのであるから、そのリスクは緩和される。つまり、メロスは老爺にとって絶好のテロ実行犯なのである。
老爺の悪の手口
路で逢った若い衆をつかまえて、何かあったのか、二年まえに此の市に来たときは、夜でも皆が歌をうたって、まちは賑やかであった筈だが、と質問した。若い衆は、首を振って答えなかった。しばらく歩いて老爺に逢い、こんどはもっと、語勢を強くして質問した。老爺は答えなかった。メロスは両手で老爺のからだをゆすぶって質問を重ねた。老爺は、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。
老爺の手口は、メロスが若い衆に話しかけるのを見て、こいつは利用できると読んだのだろう。それで、メロスに近づき、向こうから話してくるように仕向けた。そして計画通り、メロスは老爺に近づいてきて、義憤に駆られた。大成功である。
国王の機転
即刻死刑の回避
勢いだけの単純なメロスは当然すぐ捕まる。国王を殺そうというのだから、その場で即刻死刑でもおかしくない。しかし国王はメロスと会話する。そして3日の猶予を与える。さらにその上で、セリヌンティウスという人質の命をメロスの命の代わりにすることに同意する。このポイントは、メロスが即刻死刑であったのが、3日の猶予が生まれたことと、読者の関心の中心が死刑から、メロスは本当に戻れるのかに移ることである。.これにより国王はメロスが戻ってこなくともセリヌンティウスを恩赦にして殺さないという選択肢が生まれる。メロスの代わりとはいえセリヌンティウスに罪はないからである。そうなればメロスも殺さずに済む。そもそも、国王は、メロスに戻ってこさせなくとも、部下の1人をメロスに同行させ、結婚式が終わった後、即座に処刑させることもできたのである。でもしない。それは、国王は、誰かに利用されただけのメロスの命を救おうとしているからである。
死刑自体の回避
メロスが戻ってこなかったら、上に書いた流れでセリヌンティウスを恩赦にして終わりだろう。メロスの追及もなし。若者は誰も死ななくて済む。しかし、メロスは戻ってきてしまったから困る。死刑にしなければならなくなるから。そこで国王は仕方なく最後の手に出る。これは本当に渋々だったと考えられる。その手とは、"メロスと自分は同じ考えを持つ"ということだ。メロスが死刑になる理由は、メロスが国王の施政に反対し、その解決手段として国王を「生かして置けぬ」としたのである。懐中に短剣を忍ばせていながらも殺すとは言ってないところが太宰治のうまいところ。当時は短剣を普通に持ってたかもしれないし。脱線したが、つまり、国王とメロスの考えが異ならないことを示せば、メロスを死刑にする意味はなくなる。それで、国王は、自分の権威が傷つく可能性があるにも関わらず、若者の命を救うことを優先して、
おまえらの仲間の一人にしてほしい。
と言うのである。これでメロスの命は救われた。国王の機転の素晴らしさ。非常に単純に「走れメロス」を読むと、メロスとセリヌンティウスの友情に国王が心打たれたかのように取れるが、この物語が、あちこちおかしいことと作者が太宰治であることもあり、素直にそう取るべきではないだろう。