時々のこと

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VW発覚前から不正…三菱自の排ガス試験不正操作


問題となっている不正操作は、フォルクスワーゲンの不正発覚前の試験であり、VW発覚時に自ら公表しなかったことを問われている。VWの騒動の大きさを見れば、足がすくむのも分かるが、外部から発覚した時のインパクトは、それを超える。

記事

全体責任ではない

この手の問題は、日本であると、個人の責任はあまり外に出てこないが、悪事を思いつく人、悪事を承認する人、悪事を実行する人がちゃんといるから、悪事は生まれるのである。まあ、それぞれ別人である必要はないが。で、今回は日本国内の話ではなく、ドイツの捜査当局が、主体となるものであり、調査の発想が違う。

捜査当局は試験を不正にパスしたエンジンを搭載した車が販売されていたとして、関わった人物を特定して実態解明を進めるとしています。(NHKの記事)

「関わった人物を特定」してから実態を解明するらしい。これを読んで、「個人に来るのか、怖いな」と思うか、「職業人は、自律的に行動すべきだから、悪事に巻き込まれたとしても毅然とした対応をとるべきであり、当然個人の責任」と考えるかは、立ち位置の違いからくる。日本的と言えそうなのは、前者。しかし、捜査は、海外で進む。共同通信の記事。

こちらは、見出しからして「詐欺容疑で責任者の捜査捜査進める独検察」と個人を特定して捜査を進めると書いている。

排ガス規制を不正に逃れた詐欺容疑で捜査を進めていると発表した。捜査対象は「国際的な自動車メーカー」や「国際的な自動車部品メーカー2社」などの「責任者」だと明らかにした。(共同通信)

捜査対象は、漠然と三菱自動車とせず「責任者」となっている点が重要。個人のコンプライアンス意識が問われている。日本の発想だと、社長が頭を下げてことによったら辞任して…で、うやむやになる印象であるが、今回はそれでは済まない。

コメントのまずさ

これについての、三菱自動車のコメントは下手過ぎである。

三菱自動車「調査には協力」
ドイツの捜査当局による捜索について、三菱自動車工業は「ドイツ国内の販売会社と研究開発拠点に検察当局が訪れたのは事実です。詳細な情報は収集中ですが、当局の調査には協力していきます」とコメントしています。(NHKの記事)

ああ、「当局の調査には協力していきます」の「は」の忌々しさよ。この「は」の有る無しで、印象はガラリと変わる。無ければ、協力姿勢をしっかり感じるが、「東京の調査には」とすると、何か限定的なニュアンスが出てくる。言われたことを最小限やるという印象がある。これ、絶対失敗。記者も目ざとくそこを見出しに持ってくる。まあ、当然。

既視感

こういうの、何度も見せられるのは、本当に問題である。大企業であっても、単に1企業の中の1個人になると、問題の大きさを理解できないまま、取り返しのつかないことをしてしまうのは、人間の悲しい性なのかもしれない。

罪の所在

この排ガス不正、捜査当局は、「関わった人物を特定して実態解明を進める」ということだが、次の記載がある。

排ガス試験の際、禁止されている装置を使って有害物質の排出が不正に低く抑えられていた疑いがある

これ、つまり禁止されている装置を使うことを決定した者が一番関与が強いことになる。例えば、排ガス試験実施者が決定していたら、その人に同情してしまう。なぜならば、開発者が排ガス試験に通らないようなエンジンを作らなければ、そんな決定はそもそも不要であるのだから。しかし、ドイツの捜査当局の考えは、それは試験実施のプロフェッショナルとしての職業倫理から、あってはならない決定となるのだろう。まあ、あまりに日本的な決定がなされており、最終決定者が誰かもしくは、本当にその者が最終決定者なのかわからないようなフワッとした決定がなされている可能性もある。しかし、だからこそ「関わった人物を特定して実態解明を進める」とわざわざ書かれているのだろう。

問われていること

しかしこの問題、時系列で見るとちょっと複雑である。フォルクスワーゲンの不正事件を知っていて、それでもなお不正な検査を行ったというわけではないのである。下の朝日新聞の記事には、次のように書かれている。

当局は2015年9月以降に登録された排気量1.6リットルの車と、12年11月以降に登録された2.2リットルの車の購入者に対し、地元警察へ届け出るよう求めている。

これは、規制逃れの不正を行ったのが、1.6リットル車は2015年9月以前、2.2リットル車は2012年1月以前ということを意味する。4年以上前の話である。フォルクスワーゲンの不正発覚が2015年9月なので、これの意味することは、VWの不正が報道された際に、既に今回発覚した不正は実施済みであり、三菱自動車は、VWの不正発覚のタイミングで、自らの不正を発表しなかったということである。関わった担当者から、責任者、経営に至るまで、気付かないわけがなかったのである。しかし、公表しなかった。これが問われている。排ガス不正が、300億ドル以上の罰金、経営陣・幹部の起訴等、フォルクスワーゲンに与えた影響を考えると、とても自ら公表できなくなってしまったと言える。

コンプライアンス

三菱自動車という大きな会社であるので、社員、経営陣へのコンプライアンス教育に、多くの時間を割いていたであろう。しかし、結局、公表するチャンスがあった2015年9月以降、4年以上にわたって、これを知る複数の者がいながら、この不正は隠し続けられた。コンプライアンス教育の実効性とはこんなものと言える。

開発者の罪

しかし、何が悪いのかというと、排ガス試験を通らないようなエンジンを作ってしまった開発者の罪が大きいと感じる。ちゃんと試験を通るエンジンを作っていれば、試験担当者も何も気にすることなく、淡々と試験して淡々と結果をまとめて終わりだったのである。今回の不正では、罪を問われないだろうが、実体的には、開発者の罪は重い。こう考えてしまうのは、日本人だからで、グローバルスタンダードの感覚が鈍いということだろう。