アカデミー賞において作品賞を含む10部門を獲得した1939年制作の「風と共に去りぬ」が、米ワーナーメディア系動画配信サービスHBO Maxの配信リストから消された。これは、ジョージ・フロイドが白人警察官に首を圧迫され死亡したミネアポリス反人種差別デモに端を発する世界的な人種差別反対デモの流れに乗るものである。
「風と共に去りぬ」が現代に突きつけた問題
この作品は、製作されたのが公民権運動より20年ほど前の80年前で、しかも物語が扱う時代は更にそれより70年前の南北戦争前後である。このような時代背景を持つ作品・テーマを、現在の我々はどのように鑑賞すべきかという問題が、唐突に突きつけられたのである。
HBO Maxの打算(ステマ?)
ビジネスの話になるが、HBO Maxは、「風と共に去りぬ」を配信停止することの効果を見込んで、敢えて行なったという見方ができる。HBO Maxの動画配信は、2020年5月27日に開始されたサービスである。つまり、今まさに売り出し中の知名度を高めたくてしかたのないサービスである。先行する多くの競合動画配信サービスの中に埋没しないために、知名度を高める必要がある。このような絶好のタイミングで行われたのがこの映画の配信停止である。ステマの臭いがして仕方がないのだが。
「風と共に去りぬ」がステマのターゲットにふさわしい理由
このHBO Maxが動画配信サービスを売り出すに当たって「風と共に去りぬ」が最適だったのは、端的に言えば、知名度が高い古いコンテンツであること、これに尽きる。
知名度が高いこと
「風と共に去りぬ」の知名度は米国内のみならず、国外でも高い。また、AFI(アメリカン・フィルム・インスティチュート)が2008年に選んだ「叙事詩的映画ベスト10」の第4位にもなっている。このような知名度の高い映画を、今回の反人種差別デモに絡ませることで得られる宣伝効果は莫大である。
古いコンテンツであること
古いコンテンツであるため、この映画を人種差別的と一時的にせよ扱った場合に、何らかの負荷を生じる可能性がある人が少なくなる。製作陣にせよ出演者にせよ鬼籍に入っている。この辺りの配慮がいらないことは、要らぬ論争を生むリスクを下げるので、HBO Maxは安心して表に出すことができる。しかも、HBO Maxは人種差別反対の立場としてこれを行うのであるから、イメージアップにしかならない。
宣伝効果の例
CNNもニューヨークタイムズも見事にHBO Maxの宣伝に協力してしまっている。
いつでも配信を再開できることからくる余裕
自主的に配信を止めて、しかし、再開する場合は特に問題シーンをカットすることはしないと予め言っている。これ、タイミング見て配信再開すると言っているのである。また、この配信停止のエピソードと、黒人奴隷に関する部分を除く映画自体の評価に伴う評判が高まれば、配信再開時には高い視聴数を見込めることになるので、立ち回りとしてあざとさを感じるものである。人種差別反対の看板の裏で、それを商業的に利用しているような苦々しさを切り離せない。
立ち上げ時における話題作りのHBO Maxの立ち回りのうまさは格別。しかし、そのために名作映画を使うのはいただけない。