時々のこと

子どものサッカーについて。小学校から遂に高校までたどり着きました。その他時々のこととか。

「東大作文」の見え方


『「伝える力」と「地頭力」がいっきに高まる 東大作文』(西岡 壱誠著,東洋経済新報社,2019)

という本を読んだのですが、色々思うところがあります。

本書のターゲット層

これ、ターゲットは誰なのでしょう。中高生、受験生をメインに、「東大」というキーワードに食いついてくる一般層をついでに狙っているのでしょうか。しかし本書、「東大生がみんなやってる」みたいな売り文句が多くて少し辟易。だから何?と思ったら負けみたいな雰囲気があります。「東大教授がみんなやってる」なら嬉しいかというと…多分若者は買わないですね。年配層向けの雑誌に「名医に聞く」とかいう特集があったりするので似たようなものを感じます。

本書のジャンル

本書を読んで、既視感を覚えピンときたのが、これです。

国語入試問題必勝法(清水 義範著,講談社,1987)

「東大作文」の32年前の本です。当時はまだ大学進学率が現在ほどではないです。だから当時は国語入試問題というだけで、何か難しい国語問題のハウツー本なのだなと読者をひきつけたのです。ところがこれ小説なのです。しかもパスティーシュ(模倣)小説と言われるジャンルのものです。要は、国語入試問題の必勝法のようなものを題材にした小説です。ただし、採り上げられる必勝法のようなものは、もっともらしさを伴うものであったので、そこにおかしさがありました。
改めて「東大作文」を見てみましょう。
著者は真面目です(多分)。300ページを超える大作です。しかし、著者の前著「東大読書」のセルフパロディのような気がするのは自分だけなのでしょうか。

タイトル詐欺でなくパスティーシュなのです

「東大作文」といいつつ、東大で学んだ作文技法ではなく、東大入試を通じて、つまり、東大で学ぶ前に著者が独力で得た作文技法が中心の本です。うーん、キャッチーなタイトルは良いけれど、タイトル詐欺じゃないか?普通の感覚なら「東大入試作文」とつけるべきと考えるはずです。

まあ、このように読者を引きつけて買わせるというのも、「東大作文」の技法と言えるかもしれません。しかし、それは本書をハウツー本と真面目に考えた場合の話です。もしパスティーシュ小説であったならどうでしょう。このようなタイトルの付け方は、「国語入試問題必勝法」と同じであることに気づくでしょう。

著者の壮大な遊び

本書をパスティーシュ小説として考えると、著者の戦略が見えてきます。まず「東大読書」を世に出し、次に「東大作文」を出したこの順番に意味があるのです。「東大作文」を「東大読書」の技法で読めということでしょう。そうすれば色々仕掛けがわかるよと(私はあまり解りませんでしたが)。「東大読書」と「東大作文」は、問題編と解決編という感じの2部構成の推理要素も含めた小説と考えたら面白いかもしれません(あくまで「かも」のレベル)。

ハウツー本としてどうなのか

書かれている内容

書かれていることに納得感はあります。まあ、まどろっこしいというか、わざわざそこまで分解するのか?というのはありますが、そのあたりは人それぞれですので構わないと考えます。ます。

読みづらさ

しかし、どうしても気になるのが、この本自体が読みづらいことです。作文の指南書が読みにくいというなんとも言えないこの感じ。少なくとも私には読みにくいです。理由も分かっています。縦書きなのとマーカーと2色刷りなことです。

縦書き

縦書きが悪いわけではないのです。縦書きなのに横書きの感覚で書かれているのが読みづらいのです。パッと見とっちらかった感じなのです。これは、改行(改列?)が関係していると思われます。いま、ワープロソフトやブログで文章を書くとき、大抵は横書きだと思います。で、ブログ等では結構改行を頻繁にする人が多いです。それが見やすいのは、人の目が横に並んでいて、かつ左右の動きの方が上下の動きより大きく動かせるからです。改行されたブログの短い一文は、パッと見で読めます。このため、スクロールはその分多くなりますが、ズラズラ文が連なっているより読みやすいと思う人はいます。

これを縦書きでやってしまっている。おそらく著者は原稿をパソコンかiPadで作成したのだと思います。それならば作成時は読みやすかったと思います。しかし出版されたのは縦書きです。人の目は横に強く縦に弱いから、縦書きだとパッと見では読めないです。逆に、縦に読むときに改行の白い部分が気になって仕方ないです。逆効果です。

マーカー

著者は親切にもぎゅうような箇所にマーカーを入れてくれています。しかし1ページ中に何ヶ所かあるため、全部読む場合にはこれが気になってしまい読むのを妨げます。マーカーは読む人が自分が大切と思った箇所に、一度読んだ後に引くものであって、初見の文章にマーカーが引いてあった場合は、邪魔にしかならない。著者が、それが重要だというならば、

それ以外は重要でないということなので、推敲して落とした方が良いのではないかと思う。まあ、重要か重要でないかの二者択一ではないというのもその通りなのですが、最初からマーカー入っているのは読みづらいです。

2色刷り

青と黒の2色刷りです。これもマーカーと同じで、1ページ内にチョロチョロ文字の色が変わり読みづらいです。

全部のせ

縦書き+マーカー+2色刷り。この3つが重なることで「東大作文」は非常に読みづらいです。何を言っているのだとお思いの方もいると思いますが、本書を手に取っていただけば分かると思います。

 

著者は何か作文のハウツー本を読んでから書くと良かったと思います。

 

とにかく縦書きが諸悪の根源です。人の眼の構造はどうしようもないですから。横書きならばマーカーも2色刷りもこれほど読むのに邪魔にならなかったと思います。

結論

パッと見で読みにくそうと思わなければ、読んで得るものはあると考えます。