例年同様Jリーグの経営情報 (先行発表)が開示された。確定版は7月となる。Jリーグ全55クラブの内、新型コロナウイルスの影響により決算の確定が延期となった6クラブと、3月決算の4クラブの経営情報が開示された。
これについてみていく。
開示資料
①本体資料
②データ資料
概観
全55クラブ中、決算確定した45クラブの合算状況。
営業収益:1154億円(前年比+72億円+6%)
営業費用:1164億円(前年比+108億円+9%)
チーム人件費:551億円(前年比+55億円+10%)
ざっくり分かるのは、前年度とあまり変わらないこと。まあ、高額の外国人選手の獲得が賑やかであったことから、チーム人件費増加が営業費用増に影響したかなという程度。
とはいえこれは、J1からJ3までの合算で、Jリーグ経営陣にとっては規模感はつかむ意味があるかもしれないが、ここのチームでは全く使えない数字。気になるのは各ディビジョン、各チーム間の差。
ディビジョン間の差
全体傾向
2017年度から2019年度を比較すると、営業収益の増加は、J1は毎年10%程度の成長はある。J2も、10%に満たないが2年連続で増加している。しかし、J3は、2018年度は増加したものの、2019年度は、2017年度以下になっている。ただしこの落ち込みは、J2から降格したチームについては分かるが、J3全体の減収額の58%を占めるのは、この期間ずっとJ3の岩手の収益悪化によるものである。ただし2018年度が前年度比+72%の伸びを示していたので、元に戻ったという感じである。
平均営業収益比較
ディビジョン別1チームの平均営業収益を見てみる。
J1:51.63億円
J2:16.54億円
J3:4.70億円
この違い。それほどは単純ではないが、これだけ見ても、昇格することの価値と難しさが分かる。もちろん、各ディビジョン内でも格差は大きいが、これを見れば、イニエスタ1人で30億円以上払えてしまう神戸は明らかに反則である。これは、J3全チームの営業収益の半分以上に当たる。楽天すごいとしか言いようがない。
配分金の営業収益に与えるインパクト
J3の営業収益は、J1のJリーグ配分金の平均値である5.38億に満たないという点も特筆すべきである。ディビジョン間の差は大きい。J2の配分金も1.57億円と、J3の平均営業収益の3分の1ほどもらえる。故に昇格が悲願となる。因みにJ1の配分金平均値は、J2の平均営業収益の16.54億円の3分の1ほどとなっており、この3分の1という関係は、ディビジョン間で敢えて計算して設けた差とも考えられる。
営業収益の推移に関するJリーグの考え
本体資料では、営業収益について以下のように評価されている。
2019-2018年度比較(44クラブ) 増収28クラブ、減収15クラブ
J1クラブがリーグ全体の成長を強くけん引している
これはどう捉えるべきなのだろうか。Jリーグ全体の成長とは何なのか。各ディビジョンの増収クラブの割合は、次のようになっている。
J1:81%
J2:56%
J3:58%
確かにJ1は、J2、J3と比べて増収のクラブの割合は高い。しかし、既に見たように、そもそも金額の差がディビジョン間で大きい。リーグトップのディビジョンであるJ1の成長も重要であるが、下位のディビジョンについてJリーグとしては、「J1クラブがリーグ全体の成長を強くけん引している」と言っているだけで良いのであろうか。「けん引」という言葉の意味次第であるが、実力の世界であるので弱いチームは仕方がないという考えもあるが、それなら「けん引」という言葉は適切でないと考えられる。
ディビジョン別総額の推移
「J1クラブがリーグ全体の成長を強くけん引している」をディビジョン別総額の推移と考えたらどうなるか。J1では、2017-2018が101億円、2018-19が68億円の増加。J2では、それぞれ18億円、5億円の増加。J3では、それぞれ2億円増と4億円減収。ディビジョンで金額の桁が違うので、全体の成長は当然J1クラブが牽引することになる。それはディビジョンがそのように設計されているからと言える。
入場料収入
入場料収入については、J1は全て増収。J2は半数近くが減収。J3も半数が減収。とはいえ、J2、J3共に前年度、前々年度の降格チームが減収チームとなりがちで、一概にJ1のみが入場料収入を上げる偏った状態というわけでもない。もちろん絶対額は大きな差があり、J3の全チームの入場料収入が、J1の入場料収入最下位の大分の金額に満たないという状況である。