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後味の悪い事件:文化財無断切り取り


岩手県立博物館の学芸員が、所有者に無断で金属製の文化財の一部を切り取る行為を繰り返していたという。その数200点。

所有者の了承なく文化財を傷付けることは研究者のモラルに反する

ということだが、そういう問題だけなのだろうか。

事件の記事

文化財200点、無断で切り取り 岩手県立博物館の学芸員

https://mainichi.jp/articles/20190605/k00/00m/040/002000c

毎日新聞 2019年6月5日

問題点

この事件の問題点は何か。まずは、記事でメインに挙げられている、モラルに反するということ。これは、記事中では、

社会全体の信用を失う行為

とも言い換えられている。次に記事の最後に出てくる、

科学者なら分析結果を社会に示して還元すべきで、それをしていないこと

こちらも重要な問題である。

あと、記事には書かれていないが、これ器物損壊の犯罪では無いのか?
以上から、ここでは、問題点として、
1.社会全体の信用を失う行為
2.分析結果を社会に示して還元していないこと
3.器物損壊罪の成立有無
の3つを挙げる。

続報

これにつき見る前にもう1つの記事を上げておく。

「Wの悲劇」と呼ばれ 文化財無残 「ひどい」無断切り取りに被害自治体 岩手県立博物館

https://mainichi.jp/articles/20190605/k00/00m/040/009000c

毎日新聞 2019年6月5日

いや、このタイトルからしてやったことのダメさ加減がわかる。Wの悲劇…ですか。

各問題点の詳細

1.社会全体の信用を失う行為

これはもう言うまでもない。所有者の許可を得ず預かったものを傷つける行為は許されない。また、言い訳に、「本来なら契約協議の段階で口頭で承諾を取る。今回も取ったと思っていたが担当職員のミスだった」と答えたそうだ。ええー、そもそも口頭で良いのか。その習慣というか意識に驚きである。文化財は長い年月を経てきたものである。それを後から検証できない言った言わないで水掛け論となること必至の口頭で毀損することを許可しているとは。そのこと自体が問題ではないのだろうか。しかも所有者は個人ではなく団体であり、その時の団体の人間の一存で決めるなら、ちゃんと誰が許可したか残しておかないと…無茶苦茶ですね。

2.分析結果を社会に示して還元していないこと

これは九州国立博物館の前館長のコメントにあるもので、同業者らしいコメントである。全くその通りで、文化財を学芸員がサンプルを取るために傷つける行為は、文化財の研究・保護のために行うべきもので、そかから得られる成果は研究者で共有すべきものである。そもそも許可を得ていたと思っているのなら、なぜ所有者に結果を報告しなかったのかという正論の質問が出てくる。これに対しては、記者がかなりこの学芸員を攻めている。

 サンプリングしていたなら、なぜ所有者に結果を報告しなかったのか。了承を取ったと勘違いしていたとしても、その疑問は残る。そう尋ねると「資料を学術的に位置付けられるようなデータではなく、重要性が低かった」と淡々と説明した。「歴史・文化の解明に使えるデータではなく、逆にノイズになる恐れがあるものはあえて(報告を)控えていた」とまで言った。
 それは博物館側が決めることではないのではないか。そんなやり取りを重ねていると、学芸員は「内容と結果は渡した方が良かった。データはお返しする」とミスを認めた。

もはや学芸員無茶苦茶である。普通の感覚は、次のような自治体関係者の見解だろう。

「まさかこんな禁じ手をするとは。文化財を守る考えから逸脱している」

3.器物損壊罪の成立有無

「私は自治体とはやり取りしていない」「部下である複数の職員が了承を取っていると思っていた」

とまでこの学芸員は言っている。悪いのは部下のせいであると。イヤイヤイヤ、部下といっている時点で自分の責任でしょう。罪の意識全くなしのわりにムチャクチャ無防備である。これ、他人の財物を許可なく毀損しているし、その目的も結局自分の満足のためでしかないし、器物損壊罪が成立するのではないのか。ポイントは口頭で許可を取っていたと思っていたとかいう点。この分野の慣習で口頭で良いとなるとこれはなかなか手強いかもしれない。

悪気なし

2つ目の記事の最後は次のように終わっている。

 館長らは腕を組むなど厳しい表情でやり取りを見守った。学芸員は「結果として所有者と大きな食い違いが生じた。これからは相手がどういう作業内容を欲しているか明確にする」と語った。

これからは…だと。次がまだあるかのような言いっぷりである。60代の学芸員。このような人間が、これまで悩みなく楽しく自由に仕事してきたのだろうなぁと思うと、何だか苦しい気分になる。裏に悩んで苦しく不自由に仕事してきた人がたくさんいたであろうことは分かるから。まあ、本件明るみに出たのは、この学芸員が引退するにあたって引き継ぎか何かでやってきたことが検証されちゃったのだろうね。

何故実行したのか

動機についての記述は2つ目の記事に次のものがある。

動機については「切り取った文化財の分析結果は公表できない。自分の研究を裏付けるデータに使っていたのでは」と推測している。

つまり、入手手段に正当性がないので、論文や公演等で直接研究成果として発表することはできないが、研究の一助とするデータだと。まあ、研究熱心であったことは認められる。確かに文化財の一部を切り取った資料は、金銭的価値もないであろうから私服を肥やすとかいう訳ではないだろう。また、その文化財を傷つけることそのものに価値を置いているとも思えないから、知りたいという欲求が抑えられなかったのだろう。その意味で、研究分野が適していれば、別な分野で正当な学術的成果で成功していた人なのかもしれない。その意味で還暦過ぎまで学芸員として研究できたのであれば、これからどんな罰を受けても、この人的には幸せな人生となるのだろう。いやあやはり後味悪い事件である。

続々報

この事件、混迷を極めてきた。今度は中日新聞が切り口の異なる報道をしている。

文化財を無断で切り取り、岩手 80点、県立博物館学芸員

https://www.chunichi.co.jp/s/article/2019060501001455.html

中日新聞 2019年6月5日

切り取り点数からして違う。また、こちらは学芸員の名前を出しているし、博物館側は、

「正当な手続きを取らずに、少なくとも約80点切り取った。状態を精査するためだった」

と白状してしまっている。5日に博物館が発表したということで、事実確認が取れたということか。ただし、2014年に発覚・処分までしていたという。それで何で先の毎日新聞の様な記事になるのだろうか。確かに毎日新聞の記事は、学芸員の胡散臭さを強調し、館長を敢えて逃すような書き方だった。しかし一方で、館長は実名を記し、学芸員は匿名のままであった。これはつまり、毎日新聞記者が、館長に真実を話さないと自分が傷つくだけだぞというプレッシャー兼思いやりを掛けたのだろう。それで中日新聞に書かれた発表につながったと。ただし、点数が200点から80点に大幅に減ったところが今度は気になるところではある。

続々続報

毎日新聞は、こと事件報道の本家の強みからか、博物館側の、より詳細な発表を報じている。学芸員は、もうお手上げしちゃっています。

文化財切り取り 学芸員が謝罪「所有者に説明できず」 岩手県立博物館会見

https://mainichi.jp/articles/20190605/k00/00m/040/088000c.amp

もう、毎日新聞書きたい放題に見えてしまう。最大200点、分かっている範囲では少なくとも80点と数字の謎も明かされている。ただし、館長はこの謝罪記者会見に同席せず、副館長を出させたところが、ちょっとダメだねと。副館長が同席するのは構わないが、館長はこういう時のためにいるのでしょうに。逃げたと言われるね。結局、力を傘にという、学芸員と同じムジナという評価になるよ、これ。

世界遺産めざす遺跡の出土品も 岩手・文化財切り取り

https://mainichi.jp/articles/20190605/k00/00m/040/085000c

毎日新聞 2019年6月5日